pboyの雑事記

私P boyの興味をもったことが書かれています。

臨済義玄禅師の生涯と禅風

臨済義玄禅師は、今から1200年ほど前の唐代末期の、山東省南華の生まれであるが、詳しい生年月日は分からない。鎮州の臨済院という寺に住したことから臨済禅師と呼ばれていた。867年に亡くなったとされる。
臨済義玄禅師の生涯はいくつかの書に記されているが、今回は名著とされている臨済録を参考にする。これは臨済の弟子三聖慧然の編集、興化存奨の校勘になるもので、禅語録の王とも呼ばれている。 臨済録臨済禅師の死後244年経って宣和2年(1120)に刊行された。
禅宗へ転向して黄檗希運禅師に師事し、いわゆる黄蘗三打の機縁で大悟した。臨済宗という宗名は宗祖の名前からきている。臨済禅師は幼い時から多芸にすぐれ、親孝行者として有名だった。志が強かったため出家し、まず経律論の三蔵を綿密に学んだが満ち足りず、ある時こう言った。
「こういう学問はみな世間の人々を導くための処方箋であって、仏教の核心ではない」
そしてすぐ修行の旅に出て黄檗和尚の元で禅に参じた。臨済録によると、臨済禅師は若き日に黄檗希運禅師のもとで、まことにひたむきで純粋に修行に打ち込んでいた。その修行態度を見た首座が感嘆して、あるときこう尋ねた。
「そなたはここへ来てどれ程になるか」
「三年になります」
「これまでに黄檗和尚に参じたことがあるか」
「いいえ、まだ参じたことはありません。いったい何を聞いたらよいのかも分かりません」
「そなた、なぜ和尚の許に行って仏法の根本は何かと問わないのだ」
そこですぐに和尚に参じ仏法の根本を問うてみたところ、その声がまだ終わらないうちにしたたか打ちすえられた。首座が戻ってきた臨済に様子を問うた。
「問答はどんな具合だったか」
「まだ言い終わらないうちに打ちすえられました。私には訳が分かりません」
「ならばもう一度いって問うてみよ」
こうして三たび質問して三たび打たれた。ついに臨済禅師は首座に願い出た。
「幸いにお慈悲をこうむって和尚に質問することができましたが、三度問いを発して三度打たれました。残念ながら因縁が熟さないらしく深い意味を悟ることができません。しばらく他で修行しようと思います」
「下山する時には必ず和尚に挨拶してから行きなさい」
首座は先回りして黄檗和尚に言った。
「あの若者ははなはだ真面目です。やって来たら導いてやってください。将来かならず一株の大樹となり、人々のために涼しい木陰を作るでしょう」
臨済が出立の挨拶に行くと和尚が言った。
「そなたは大愚和尚の元へ行くがよい。よそへ行ってはならぬ。きっとそなたのために説いてくれるだろう」
臨済は大愚和尚のところへ行った。
「どこから来た」
黄檗和尚のところから来ました」
黄檗和尚はどのように教えているのか」
「私は三たび仏法の根本を質問し、三たび打たれました。私にどんな落ち度があったのでしょう」
黄檗は老婆のように親切な和尚だ。くたくたになって仏法の根本を教えてくれたのに、更にわしの所へやって来て何か落ち度があったのかと聞くのか」
臨済は言下に大悟して言った。
黄檗和尚の仏法はまったくの根本そのものだったのだ」
こうして臨済黄檗和尚のもとへ帰りその法を継いだ。臨済禅師は黄檗和尚に叩かれて眼が覚めかけ、大愚和尚に一押しされて眼が覚めたのだった。
その後河北省の有力軍閥である王常侍の帰依を受け、臨済院に住み、興化存奬を初めとする多くの弟子を育て、北地に一大教線を張り、その門流は後に臨済宗と呼ばれるようになった。
臨済義玄禅師の禅風は「喝」を多用する峻烈な禅風であり、徳山の「棒」とならび称され、その激しさから「臨済将軍」とも喩えられた。「臨済の喝」といわれる様に、「喝」が臨済宗の代名詞であり、臨済和尚はその喝をよく使っていた。
しかし、一般に「喝を入れる」などと使われているように、「喝」は人を怒ったり、また気合を入れたりするためのもの、と考えられがちである。「喝」は臨済から出てはいるが、本当の臨済禅師の「喝」はそれとは違う。
『教外別伝(きょうげべつでん)』という言葉からわかるように、仏教のさとりは残された書物や言葉とは別に伝わっているのだ、という思想が禅宗の根底にある。
臨済禅師も、多くの仏教の経典や書物に通じていたが、おそらく自分では究極のさとりというものにたどり着いたとは感じられなかったのか、それらに満足できなくて「禅」の修行を求めた人物であった。
「さとり」は言葉や文字で説明できるものではなく、
臨済和尚はその説明できない部分を、「喝」で表現したのである。時にはその喝を聞いて、弟子が震え上がるという場面もあっただろうが、それは決して弟子たちを脅すためのものではなく、臨済禅師の「説明不能のさとり」を表現するためのものであった。

参考文献
入矢義男訳注 「臨済録」 1989年1月17日発行 岩波文庫 株式会社 岩波書店